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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)38号 判決 1986年10月30日

原告(甲事件原告) 伊藤直治

<ほか三名>

同(乙事件原告) 小方幾三

右原告ら訴訟代理人弁護士 前田修

同 前哲夫

同 羽柴修

同 竹嶋健治

同 前田正次郎

被告(甲・乙事件被告) 金城建設又は斐こと

裴政憲

同(甲・乙事件被告、丙事件原告) 株式会社五島組

右代表者代表取締役 大野憲三

右被告ら訴訟代理人弁護士 奥見半次

被告(甲・乙事件被告) 神戸市

右代表者市長 宮崎辰雄

右訴訟代理人弁護士 奥村孝

同 石丸鉄太郎

右訴訟復代理人弁護士 鎌田哲夫

同 中原和之

被告(甲・乙・丙事件被告) 大阪瓦斯株式会社

右代表者代表取締役 大西正文

右訴訟代理人弁護士 速水弘

同 吉村修

主文

一  被告裴政憲、同株式会社五島組、同神戸市は各自、次の金員を支払え。

1  原告伊藤直治に対し、金一五一五万七四四一円及び内金三九六万七七四五円に対する昭和五二年二月八日から、内金一一一八万九六九六円に対する同六〇年一一月一四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

2  原告李繁盛に対し、金四三二九万五二九五円及び内金四二二九万五二九五円に対する昭和五二年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員

3  原告李大英に対し、金七九四万七七五四円及び内金七四四万七七五四円に対する昭和五二年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員

4  原告李華玉に対し、金八五九万三二九八円及び内金三七二万七二六九円に対する昭和五二年二月八日から、内金四八六万六〇二九円に対する同五三年一二月一五日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

5  原告小方幾三に対し、金三〇〇一万九二二五円及び内金四九六万二二八〇円に対する昭和五二年二月八日から、内金二四五万一六六八円に対する同五五年四月一日から、内金二二六〇万五二七七円に対する同五五年九月一四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

二  原告らの被告裴政憲、同株式会社五島組、同神戸市に対するその余の請求及び同大阪瓦斯株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  被告株式会社五島組の同大阪瓦斯株式会社に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告裴政憲、同株式会社五島組、同神戸市との間に生じたものは同被告らの連帯負担とし、原告らと被告大阪瓦斯株式会社との間に生じたものは原告らの負担とし、同被告と被告株式会社五島組との間に生じたものは同被告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

六  ただし、被告神戸市が原告伊藤直治に対し金五〇〇万円、同李繁盛に対し金一四五〇万円、同李大英に対し金二五〇万円、同李華玉に対し金三〇〇万円、同小方幾三に対し金一〇〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲・乙事件)

一  請求の趣旨

1 被告らは各自、次の金員を支払え。

(一) 原告伊藤に対し、金一七三五万七四四一円及び内金五二一万七七四五円に対する昭和五二年二月八日から、内金一二一三万九六九六円に対する同六〇年一一月一四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

(二) 原告李繁盛に対し、金五〇八九万六五〇六円及び内金四九八九万六五〇六円に対する昭和五二年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員

(三) 原告李大英に対し、金九九五万一九五四円及び内金九四五万一九五四円に対する昭和五二年二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員

(四) 原告李華玉に対し、金九五八万三二九八円及び内金三九二万七二六九円に対する昭和五二年二月八日から、内金五六五万六〇二九円に対する同五三年一二月一五日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

(五) 原告小方に対し、金三二五五万九二二五円及び内金四九六万二二八〇円に対する昭和五二年二月八日から、内金二四五万一六六八円に対する同五五年四月一日から、内金二五一四万五二七七円に対する同年九月一四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 (被告神戸市のみ)

仮執行免脱の宣言

(丙事件)

一  被告株式会社五島組の請求の趣旨

1 被告大阪瓦斯株式会社は同株式会社五島組に対し、金一二四二万一三五九円及びこれに対する昭和五七年八月一四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告大阪瓦斯株式会社の負担とする。

3 仮執行宣言

二  被告大阪瓦斯株式会社の答弁

1 被告株式会社五島組の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同被告の負担とする。

第二当事者の主張

(甲、乙事件)

一  請求原因

1  当事者

被告神戸市は、神戸市東灘区魚崎西町四丁目四番一八号先から同区住吉宮町三丁目一番一号先に至る舗装道路の下に設置されるべき南北四八三メートルの瀬川雨水幹線築造工事(以下「本件工事」という。)を計画し、土木工事建築請負業者である被告株式会社五島組(以下「五島組」という。)に右工事を請負わせ、同被告は、右工事のうち同区住吉宮町一丁目一二番一五号先から同町三丁目一番一号先道路に至る二八〇メートルの区画の路面掘削工事につき被告裴に、その南側の隣接区画の同工事につき三木建設株式会社(以下「三木建設」という。)に各下請させ、原告伊藤及び同小方は被告裴に、その余の原告らは三木建設に雇用され、本件工事に従事していた。

本件工事は、右道路下に設置されていた旧雨水暗渠を拡張あるいは移設する工事で、その周辺には、被告大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)所有のガス導管が埋設されていた。

2  事故の発生

(一) 昭和五一年一〇月二〇日、被告神戸市は同大阪ガスに本件工事の実施を通告するとともに、同工事現場付近に埋設されているガス導管の配置図(以下「配管図」という。)の交付を受け、これを参考にして、同五島組に指示し、地下埋設物の位置確認のため試験掘り(以下「試掘」という。)を行わせ、試掘結果図を作成させたうえ、同年一一月一〇日本件工事につき舗装路面の破砕、掘削にとりかからせた。

(二) 昭和五二年二月八日午前八時ごろ、被告五島組現場代理人の監督下にあった同裴は、配下の作業員松本こと金寿鎬に命じてアイオン(油圧式掘削機)を操縦させ、前記住吉宮町一丁目一二番一五号先交差点付近(以下「本件現場」という。)の路面舗装部分の破砕、掘削を開始したが、午前九時ころ、同所の路面から地下約二二センチメートルの深さに埋設されていた直径一五〇ミリメートルの鋼製低圧ガス導管(以下「本件ガス管」という。)を、右アイオンの先端に装着されたチゼルで打抜き、右破損箇所から漏出した都市ガスが、同所から同町二丁目一一番二三号先付近までの南北約一三三メートルの道路下に埋設されていた旧雨水暗渠に充満し、同日午前九時二五分ころ、何らかの点火源によって引火爆発した。

(三) そのため、本件工事現場にいた原告らは右爆風で吹き飛ばされ、原告伊藤は頭蓋骨開放性骨折、顔面挫創等の、同李繁盛は頭蓋骨開放性骨折、左下腿骨々折、顔面挫創等の、同李大英は右肩鎖関節離開、両側足関節打撲傷、左鼓膜損傷等の、同李華玉は感音難聴、耳鳴りの、同小方は頭部外傷、左足関節部打撲傷、前額部、頭頂部挫創等の各傷害を受けた(以下右爆発事故を「本件事故」という。)。

3  責任原因

本件現場の路面下には、本件ガス管が埋設され、路面破砕及び掘削工事を不用意に行えば、これを損壊する危険があること及び右損壊した場合には都市ガスが漏洩し、付近の点火源から容易に引火爆発し、右工事に従事する者、右道路を通行中の者あるいは近隣に居住する市民等の生命、身体を害する大事故に発展することは、前記のとおり本件工事に関わっていた被告らの現に予見しあるいは予見しえたところであり、よって被告らは、右事故を回避し、あるいは事故が発生した場合には損害の発生拡大を防止するため、それぞれ次のとおり、さまざまな観点からの注意義務ないし土地工作物の設置、保存上の責務を負担していたにもかかわらず、これを怠り、その結果本件事故を発生させた。

(一) 被告裴の責任

被告裴は、本件現場の掘削工事に直接携わった者として、本件ガス管埋設地点周辺では、アイオンのような掘削機械の使用は厳にひかえ、手掘りをすべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、前記配下の作業員がアイオンを使用して路面の破砕、掘削をするのを漫然放置して、本件事故の直接的な原因を作った。

(二) 被告五島組の責任

被告五島組は、同神戸市から本件工事を請負い、下請業者に施工させ、現場代理人を置いてこれを直接的に指揮監督していたものであるから、原告ら下請業者の従業員に対しても、作業中、その生命、身体の安全を確保すべき契約上、法律上の義務を負担していたというべきところ、具体的には

(1) 被告五島組は、前記試掘や被告神戸市、同大阪ガスとの協議を通じ、本件ガス管の位置、深さ等埋設状況の詳細を正確に把握し、原告ら工事に従事する者に周知徹底させるべき義務があったのにこれを怠り、試掘により、本件ガス管のおよその埋設位置を確認しただけで、現場代理人において同ガス管が暗渠内を貫通しているか、又はその下側を通っているものと安易に思い込み、地表にその所在を示す路面標示(以下「マーキング」という。)を施したものの、それがしだいに薄れて不鮮明になり、本件事故当時には識別困難になっていたのをそのまま放置したほか、右周知のための措置をとらなかった。

(2) ガス管が埋設されている地点付近を穴打ちすることは、その破損事故を招きかねない危険な作業であるから、右工事を行う場合、被告五島組は、現場代理人その他の監督員を常にこれに立会わせ、その直接の指揮監督の下に右作業を行い、いやしくも前記のような危険な作業方法がとられないよう意を用い、ガス管破損事故の発生の回避に万全を期すべき注意義務があったのにこれを怠り、右立会なくして作業を進めさせたため、本件事故の発生を未然に防止することができなかった。

(3) 被告五島組は、本件ガス管破損事故が起きた場合を想定して、関係各方面への通報、応急措置、避難措置につき十分検討し、これを原告ら工事関係者に教育し徹底させておく義務があったのにこれを怠った。

また、現実に本件ガス管の損壊が生じた際、同被告は、現場代理人をして原告らを避難させるなど適切な措置をとる義務があったのにこれを怠り、被告裴をして、同大阪ガスに対する不十分かつ不適切な通報をさせるにとどまった。

(三) 被告神戸市の責任

被告神戸市は、次の理由により、本件事故につき不法行為責任を負う。

(1) 道路管理者としての義務違反

被告神戸市(土木局道路部)は、昭和四五年七月三〇日建設省道路局長通達により、本件事故のような災害を防止するため、地下埋設物に関する台帳及び図面を整備する義務があったのに、これを怠った。

すなわち同被告は、昭和四八年一二月、地下埋設物の分布を示す平面図を完成保管していたけれども、ガス導管についていえば、同図面は、被告大阪ガスから提出された配管図を表わしただけで、ガス導管の深さの表示は一切ないうえ、その後の埋設状況の変更に応じて改訂されていないため、内容と現実が異なる結果になっており、本件ガス管についても昭和四五年開渠を暗渠に変更した際、地表から約二二センチメートルという異例に浅い位置に埋設されたことを把握しておらず、その結果本件事故を招いたものである。

(2) 道路占用者としての義務違反

被告神戸市(下水道局雨水課)は、本件工事のための掘削工事の許可を得た者として、工事着工前に地下埋設物を十分調査し、関係事務所、官公庁と常に連絡を密にして事故のないよう万全を期す義務があり、また、工事現場に監督責任者を常駐させ、道路の安全管理と工事の適正な実施について十分監督する義務があったのに(神戸市道路占用規則一八条一項)、これを怠り、その結果本件事故を生じさせた。

(3) 本件工事の注文者としての義務違反

建設省計画局作成の市街地土木工事公衆災害防止対策要綱によれば、被告神戸市は、本件工事の起業者として、工事現場近辺の重要な埋設物につきその位置、規格、構造等を調査し、その保安に必要な措置を埋設物所有者及び関係機関と協議確認のうえ、設計書、仕様書等に記載して施工者に明示する義務があり、これに伴い、念を入れた十分な試掘とその結果による明確なマーキングを施し、かつ、維持すべきであった。また被告神戸市は、注文者として、危険が予想される本件工事のような場合には、安全管理のため監督員を常駐させ、適切な指図、監督をするべきであったのに、これを怠り、数個の工事現場を掛け持ちで監督する監督員を一名置いて見回らせていただけであった。そして、監督員を常駐させていれば、本件現場での路面掘削工事の際、アイオンの使用を未然に防止することができ、回避しえたであろう本件事故を、発生させるに至った。

(四) 被告大阪ガスの責任

被告大阪ガスは、超過密都市の市街地に縦横に埋設され、何らかの原因で爆発する高度の危険性を常に有するガス導管を保有使用して莫大な利益をあげているものであるから、必要な費用及び人員を十分に投入して、埋設したガス導管が法令の規制に適合するよう管理維持することはもちろん、埋設物の保安点検を怠らず、埋設後の環境条件の変化を正確に把握して、これに応じた保安対策を講ずべき社会的責任があると解されるところ、このような事情の下で、本件ガス管の設置、保存のあり方につき、関係法令、行政通達の趣旨を勘案し、条理に照らして考えるとき、同被告には、次のとおりの注意義務違反があったというべきであるが、右義務違反は、その所有する土地工作物であるガス導管が高度に危険な企業設備として備えなければならない性状の欠如あるいはその保有上の人的管理義務違反、すなわち「設置、保存の瑕疵」として捉えることができるものといわなければならない。

(1) 本件ガス管は、昭和四五年被告神戸市が開渠の上部を道路として使用するため、これに上蓋をして暗渠にしたとき、ガス導管の取替工事が行われて、前記のとおりの位置に埋設されることとなったものであるところ、右ガス導管の設置方法はガス事業法二八条一項、建設省令七四条二項所定の、暗渠内設置禁止の原則に違反しており、その例外である「やむを得ない場合」にあたると認めるべき根拠もないから、右設置に瑕疵があるというべきである。

仮に、右暗渠内の設置が右例外の場合にあたるとしても、この場合には、その位置関係、構造等埋設状況を正確に把握して記録に残す必要があり、そうしていれば、これに基づき本件工事関係者に右情報を提供でき、その結果、被告裵が前記路面の穴打ち作業開始前暗渠内を調査した際に本件ガス管の位置を現認でき、その近辺でアイオンによる暗渠上蓋の穴打ち作業をすることを指示し、または右穴打ち作業をするのを放置するようなことは避けられ、本件事故は未然に防止できたと考えられるから、本件ガス管の正確な位置構造を把握し、占有物件台帳等に記録していなかったという保存上の管理義務違反すなわち瑕疵があったというべきである。

(2) 道路法施行令一二条によると、ガス導管の本線は、その頂部と路面との距離が一・二メートル(工事実施上やむをえない場合にも〇・六メートル)以内の位置に埋設することを禁止されているところ、本件ガス管は、本件事故当時、地表から最も浅いところで約二二センチメートルの位置に埋設されていたのであり、被告大阪ガスは、道路の形状変化に伴い生じたこの状況をよく把握して、移設工事を行うなど具体的な保安措置を講じるべきであったのに、これを怠ったため本件事故を生じさせるに至ったもので、この点において右ガス導管保存上の瑕疵があったというべきである。

(3) 被告大阪ガスは、ガス導管という高度に危険な工作物の保有者として、自己以外の起業者による工事(以下「他工事」という。)の際のガス導管破損事故を防止するため、右埋設後もその維持点検を強化し、周辺環境が変化した場合にもこれに応じた埋設状況を正確に把握しておき、他工事の起業者に対し、正確な位置、構造を記載した配管図を交付するなどして、その情報を提供すべき義務があったのに、右埋設位置、構造を正確に把握することを怠り、その結果、本件工事に際し右必要な情報を提供できなかったことは、本件ガス管に関する安全対策及び管理義務を尽したといえず、また、右保存に瑕疵があったといわざるをえない。

(4) ガス導管という高度に危険な工作物の所有者である被告大阪ガスは、他工事の際、工事現場の巡回、点検につとめ、事故防止のため万全の措置をとるべきであり、特にガス導管の埋設状況が不詳であるという現状認識があったのであるからなおさらのこと、ガス導管破損事故防止のための不可欠な措置として、工事の進行状況を把握し、前記試掘時には係員を派遣してこれに立会わせ、正確なガス導管の埋設位置、構造を確認し、ガス導管破損の防止上必要な指示(例えばガス導管埋設地点は手掘りすべきことなど)ないし点検をするべきが条理上当然であった。

それにもかかわらず、同被告は右義務を怠ったばかりか、その後においても、右試掘結果が正確なものであったか否かの独自の調査、点検を行っておらず、これらの点も、ガス導管の保存管理義務違反、すなわち保存上の瑕疵といわなければならない。

(5) 被告大阪ガスは、前記のとおり、事故防止に万全を期すため、他工事期間中その工事現場を巡回、点検する義務があったところ、試掘の結果被告五島組によって施されたマーキングが、その後の掘削工事の時期との関連で適正な表示であるか否かを点検し、適正な表示のための具体的な指示をすべきであったにもかかわらず、昭和五一年一一月二〇日に右表示があるのを確認したのみで、本件事故時までにそれがほとんど消失していたことさえ知らず、漫然と放置した。

これも、本件ガス管の保存に瑕疵ありとすべき事実である。

(6) 以上のほか、被告大阪ガスは、多数の生命、身体、財産に大きな被害をもたらす事故発生の危険性が高いガス導管を所有管理する者として、ガス導管の損壊に際し、最も適切な措置をとれる立場にあり、しかも、ガス漏出事故が発生してからその報告を受け係員を事故現場に派遣していては間に合わないことが多いのであるから、これに対処すべく、ガス導管周辺の掘削工事がある場合には係員を現場に常駐させるべきであったのに、これをせず、また、本件事故の発生前にガス導管損壊の報告を受けた際、ガス漏れ防止や現場従業員の避難等につき適切な指示をするなり、自ら警察や消防署へ連絡をとるなりしていれば、本件事故の発生を防ぐことができたのに、そのような措置をとることも怠った過失がある。

4  損害の発生

本件事故により、原告らは次の損害を被った。

(一) 原告伊藤 合計 一七三五万七四四一円

(1) 入院雑費 一四万一〇〇〇円(一日につき六〇〇円)

(2) 休業損害 計五〇一万六四四一円

同原告は、本件事故当時、賃金として少くとも一日平均七八四八円を得ていたが、前記負傷により、昭和六〇年一一月一四日まで休業を余儀なくされたところ、その八割を労災保険給付により填補されたので、残りの二割にあたる次の額が休業による損害となる。

イ 昭和五二年二月九日から同五三年一二月二七日までの分 一〇七万六七四五円

ロ 同五三年一二月二八日から同六〇年一一月一四日までの分 三九三万九六九六円

(3) 慰謝料 計一一二〇万円

イ 昭和五二年九月三〇日まで入院して治療を受けたことに関する分 三〇〇万円

ロ 同五二年一〇月一日から同六〇年一一月一四日まで通院治療を受けたことに関する分 八二〇万円

(4) 弁護士費用 一〇〇万円

(二) 原告李繁盛 合計五〇八九万六五〇六円

(1) 入院雑費 一六万四四〇〇円

(2) 休業損害 二一三〇万四六〇一円

原告李繁盛は、本件事故当時一日平均一万〇三二七円の賃金を得ていたところ、前記負傷により、昭和五七年一〇月四日まで就労不能であったから、計二一三〇万四六〇一円の休業による損害を被った。

(3) 後遺障害に基づく逸失利益 四三九三万九三六五円

同原告は、昭和五七年一〇月四日症状固定し、同五八年三月三〇日労災保険後遺障害等級(以下「障害等級」という。)七級の認定を受けたので、右症状固定以後の逸失利益を計算すると、労働能力喪失率五六パーセント、就労可能年数二九年(症状固定時満三八年)、得べかりし賃金月額三七万〇九〇〇円として、頭書の金額となる。

(4) 慰謝料 計九二〇万円

イ 前記負傷自体に基づく分 三〇〇万円

ロ 後遺障害に基づく分 六二〇万円

(5) 弁護士費用 一〇〇万円

(6) 損益相殺

労災保険給付として、二四七一万一八六〇円の支払を受けたので、右損害合計からこれを控除すると、残額は五〇八九万六五〇六円となる。

(三) 原告李大英 合計九九五万一九五四円

(1) 入院雑費 六万八四〇〇円

(2) 休業損害 三八八万三五五四円

同原告は、本件事故当時一日平均六五二二円の賃金収入を得ていたところ、前記負傷により、昭和五二年二月九日から同五五年一月一七日まで一〇六七日間の休業を余儀なくされ、六九七万二〇一八円の休業損害を被り、三木建設から休業補償として三〇八万八四六四円を受領したので、差引三八八万三五五四円の損害を被った。

(3) 慰謝料等 計五五〇万円

イ 同原告は、前記負傷により一〇七日間の入院と九六二日間の通院による治療を余儀なくされた。この点に関する慰謝料は二五〇万円が相当である。

ロ 同原告は、昭和五二年九月六日左耳に外傷性神経性難聴及び耳鳴りの障害を残して症状固定した。右後遺障害に対する慰謝料及び逸失利益の合計としては三〇〇万円が相当である。

(4) 弁護士費用 五〇万円

(四) 原告李華玉 合計九五八万三二九八円

(1) 休業損害 二四二万七二六九円

同原告は、前記負傷により、頭書の休業による損害を被った。

(2) 後遺障害による逸失利益 二六六万六〇二九円

同原告は、昭和五三年一二月一五日難聴、耳鳴りを内容とする障害等級一一級の認定を受けたが、本件事故当時一日平均六二一七円三九銭を得ていたので、労働能力喪失率二〇パーセント、就労可能年数七年(当時満六四年)として、右後遺障害認定時以後の逸失利益を計算すると、頭書の金額となる。

(3) 慰謝料 計三九九万円

イ 前記負傷自体に基づく分 一〇〇万円

ロ 後遺障害に基づく分 二九九万円

(4) 弁護士費用 五〇万円

(五) 原告小方 合計三二五五万九二二五円

(1) 入院雑費 一〇万三八〇〇円

(2) 休業損害 計三三一万〇一四八円

同原告は、本件事故当時賃金として一日平均五八七九円三〇銭を得ていたところ、前記負傷により次のとおりの休業損害を被った。

イ 昭和五二年二月九日から同五四年二月八日まで 八五万八四八〇円

ロ 同五四年二月九日から同五五年三月三一日まで 二四五万一六六八円

(3) 後遺障害に基づく逸失利益 一二六〇万五二七七円

同原告は、昭和五五年三月三一日症状固定し、同年九月一三日障害等級三級の認定を受けたので、右症状固定時以後の逸失利益を計算すると、労働能力喪失率一〇〇パーセント、就労可能年数七年として、頭書の金額となる。

(4) 慰謝料 計一五五四万円

イ 前記負傷自体に基づく分 三〇〇万円

ロ 後遺障害に基づく分 一二五四万円

(5) 弁護士費用 一〇〇万円

5  よって、原告らは被告ら各自に対し、前記3記載の責任原因に基づき、次の金員の支払を求める。

(一) 原告伊藤は、前記4(一)記載の損害金及び内(1)、(2)イ、(3)イ、(4)記載の損害金に対する本件事故発生の日から、内(2)ロ、(3)ロ記載の損害金に対する本訴における追加請求時である昭和六〇年一一月一四日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

(二) 同李繁盛は、前記4(二)記載の損害金及び内(5)記載の弁護士費用を除いた損害金に対する本件事故発生の日から支払ずみまで右(一)と同割合による遅延損害金

(三) 同李大英は、前記4(三)記載の損害金及び内(4)の弁護士費用を除く損害金に対する本件事故発生の日から支払ずみまで右(一)と同割合による遅延損害金

(四) 同李華玉は、前記4(四)記載の損害金及び内(1)、(3)イ、(4)の損害金に対する本件事故発生の日から、内(2)、(3)ロ記載の損害金に対する前記後遺障害等級認定の日から各支払ずみまで右(一)と同割合による遅延損害金

(五) 同小方は、前記4(五)記載の損害金及び内(1)、(2)イ、(4)イ、(5)記載の損害金に対する本件事故発生の日から、内(2)ロ記載の休業損害に対する右損害の最終発生日の翌日から、内(3)、(4)ロ記載の後遺障害に基づく損害金に対する前記後遺障害等級認定の日の翌日から各支払ずみまで右(一)と同割合の遅延損害金

二  請求原因に対する認否

1  被告裴

(一) 請求原因1、2(二)の各事実は認めるが、2(三)の事実は争う。

(二) 同3冒頭の事実中、ガス導管からガスが漏出した場合、容易に爆発する危険があること、同被告に注意義務違反があることは争うが、その余は認める。

(三) 同3(一)の事実中、同被告に原告主張のような注意義務が存したことは認めるが、同被告の不注意によって本件事故が生じたことは争う。

(四) 同4の事実は争う。

2  被告五島組

(一) 請求原因1、2の各事実及び3冒頭の事実についての認否は被告裴の認否(一)(二)と同じである。

(二) 同3(二)の主張は争う。

原告主張のガス爆発の原因は、本件ガス管が法令に違反して旧雨水暗渠内に設置されていたことにあり、また、被告五島組はその現場代理人にも安全教育を十分し、現場代理人も被告裴に対し事故防止のため十分指揮監督をしており、同被告は本件現場において作業に立会っていたのであるから、被告五島組に過失はない。

(三) 同4の事実は争う。

3  被告神戸市

(一) 請求原因1、2(一)、(二)の各事実は認めるが、2(三)の事実は知らない。

(二) 同3冒頭の事実中、本件工事現場の路面下にガス導管が埋設されていたことは認め、その余は争う。

同被告は、本件工事を被告五島組に請負わせたものであり、工事の施行は請負人たる同被告の裁量に基づいて行なわれるのであるから、同工事に伴う安全管理も、同被告が独立して直接的にかつ全責任を負うべきものである。

また、本件事故は、ガス導管等地下埋設物の存する地点では掘削機械を使ってはならず、手掘りしなければならないという工事関係者の常識に反し、現場作業員が漫然アイオンによる掘削作業を行ったことに起因するものであり、仮に、原告主張の義務を被告神戸市がすべて尽したとしても、避けられなかった事故であって、右義務違反との間に因果関係がないものといわなければならない。

(三)(1) 同3(三)(1)の事実中、被告神戸市が地下埋設物に関する台帳、図面を整備する義務があること、原告主張のとおり地下埋設物の分布図面を作成保管していること、それがその後の事情の変化に必ずしも対応して改訂されていないことは認めるが、その余の点は争う。右図面は地下埋設物の存在、大きさがわかる程度に記載されていれば足り、これを補完するため、掘削工事に際しては、詳細は試掘によって確認すべきこととされているものである。

(2) 同(2)の主張は争う。

下水道工事は、道路管理者との手続上の関係では、慣例的に神戸市下水道局の名において行っているが、実際に道路を占有し掘削工事を施行するのは請負業者であるから、原告主張の神戸市規則上の責務は右請負人が負担するものというべきである。

(3) 同(3)の主張中、被告神戸市が本件工事の注文者であることは認めるが、その余は争う。

被告神戸市が配置した工事監督員は、地方自治法二三四条の二第一項が命ずる工程管理と品質管理を目的とするものにすぎない。

(四) 同4の事実は争う。

4  被告大阪ガス

(一) 請求原因1の事実中、被告五島組と下請業者及び原告らとの関係は不知、その余の事実は認める。

(二)(1) 同2(一)の事実は認める。

(2) 同(二)の事実中、本件現場に埋設されていた本件ガス管が、掘削機の先端に装着されたチゼルで打ち抜かれ、都市ガスが漏出したこと、昭和五二年二月八日午前九時ごろ、旧暗渠内で何らかの点火源によって右ガスに引火し爆発したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(3) 同(三)の事実は知らない。

(三) 同3の主張及び事実はすべて争う。

ガス導管埋設地点付近の掘削は手掘りで行うべきことは土木工事の常識であり、被告大阪ガスも、本件工事の起業者である同神戸市との協議の際等機会あるごとにガス導管埋設付近の掘削は手掘りで行うよう注意してきたもので、これを守っていれば、本件事故は発生しなかったものであるから、本件ガス管の埋設位置(深さ)、あるいは、同大阪ガスが試掘に立会わなかったこと、試掘図面が不正確だったこと等は、本件事故と無関係というべきである。

また、本件ガス管の破損事故発生時に、同大阪ガスが受けた通報の内容は、「ガス管を破壊したから早く来てくれ」という程度の簡単なもので、緊急作業班は直ちに現場に急行したが、到着したのは午前九時三一分で、爆発事故発生後であったから、同大阪ガスが本件事故の発生を未然に防止することは不可能であった。

(四) 同4の事実は争う。

三  抗弁

1  被告裴及び同五島組の主張

次の原告らは、次のとおり損害の填補を受けた。

(一) 被告五島組支給分

原告伊藤 六二万〇八六〇円

同李繁盛 一〇八万五一七四円

同李大英 九三万六〇五八円

(二) 労災保険給付分

原告伊藤 四九四万六七九一円

同李繁盛 六六九万〇七六一円

同李華玉 三三三万二七二五円

2  被告大阪ガスの主張

(一) 原告小方は、前記4(五)のうちの(2)ロ、(3)、(4)ロ記載の各損害賠償請求を、本件事故が発生した昭和五二年二月八日から三年を経過した同五八年九月一日に行った。

(二) よって同被告は、消滅時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張を争う。

2  同2(一)の事実は認める。

しかし、原告小方は、本件事故に基づく損害賠償請求訴訟(乙事件)を昭和五四年三月二七日に提起しており、被告大阪ガス指摘の損害賠償請求は同一請求を拡張したものにすぎないから、時効は中断している。

(丙事件)

一  被告五島組の請求原因

1  被告五島組と同大阪ガスの関係は、甲、乙事件の請求原因1記載のとおりである。

2  本件事故の発生に至る経緯は、右事件請求原因2(二)記載のとおりであり、その結果、原告らのほか付近住民に多大の損害を与えた。

3  本件事故の原因は、被告大阪ガスが、法令に違反して、雨水暗渠内に本件ガス管を設置していたこと及び本件工事前に開催された工事関係者等の打合せ会の際、同被告が右例外的なガス導管設置方法につき被告五島組に通告すべきであったのにそうしなかった過失にある。

4  被告五島組は、本件工事の請負施行者の立場上、本件事故により損害を被った別表記載の者に対し、同表記載のとおり、その損害の填補のため支払をした。

5  しかしながら、右損害については、もともと被告大阪ガスが負担すべきものであるから、被告五島組は同大阪ガスに対し、右支払ずみの金額計一二四二万一三五九円の求償とこれに対する丙事件訴状送達の日の翌日である昭和五七年八月一四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告大阪ガスの認否

1  請求原因1、2の事実のうち、甲、乙事件の請求原因を引用する部分に対する認否は、同事件における被告大阪ガスの認否(一)、(二)(2)記載のとおりであり、その余の部分は認める。

2  同3の事実及び主張中、本件ガス管が雨水暗渠内に設置されていたことは認めるが、その余の点は争う。

3  同4の事実は知らない。

4  同5の主張は争う。

第三証拠関係《省略》

理由

第一甲、乙事件について

一  当事者

請求原因1の事実については、原告らと被告裴、同五島組及び同神戸市の間では争いがなく、被告大阪ガスも、同五島組と下請業者及び原告らとの関係に関する事実を除いてこれを認め、右除外事実については、右の関係の直接の当事者である原告らと他の被告らの間で争いがないことによってこれを認めることができる。

二  本件事故の発生に至る経緯

《証拠省略》を総合すれば、次の各事実が認められる。

1  本件工事のうち、被告裴が担当した区域の作業体制は、同五島組の現場代理人(当初は小河秀夫、昭和五一年一一月一〇日からは辰井一衛)とその部下職員濱本某、杉山某が常駐し、その指揮監督の下に、直接には同裴がその配下の作業員を使用して施工を行っており、同神戸市の監督員も、主として工程管理、品質管理のため毎日のように巡回して来て、安全面でも注意すべきことがあれば同五島組の職員に指示を与え、同大阪ガスの職員もガス管の保全、点検のため見回っていたというものであった。

2  昭和五一年一〇月二〇日、被告神戸市は同大阪ガスに対し本件工事の実施を通告し、同被告から同工事現場付近に埋設されているガス導管の配管図の交付を受けた。右配管図はガス導管の平面的な分布をほぼ正確に表示しており、その路面下の位置も記載されてはいたが、他工事の結果生じた周辺環境の変化に即応して改訂されていないため、右ガス導管の深さの記載は必ずしも正確でなく、同図面の交付に際しては、被告大阪ガスから同神戸市の監督員及び同席した同五島組現場代理人に対し、この点につき特に注意のうえ、試掘することによって右ガス導管の埋設状況を実地に確認するよう要請され、更に試掘結果図を同大阪ガスにも交付されたい旨の依頼があった。

3  昭和五一年一〇月二五日から同二八日にかけて、被告五島組の現場代理人小河秀夫の指揮監督の下に、地下埋設物の存在が予想される地点につき試掘が行われた。本件現場においては、同裴が直接その作業を担当し、旧暗渠の側壁から東側へ約〇・五メートルの地点付近で、幅五〇センチメートルから六〇センチメートル、長さ一メートル位の穴が掘られ、その穴の東端で六五センチメートル、西端で五〇センチメートルの深さに本件ガス管が東西方向に埋設されていることが確認されたうえ、試掘をしたことの証拠写真が撮られ、右小河によって赤色のラッカースプレーで路面にその旨のマーキングが施されるとともに、右穴は埋め戻されて簡易舗装された右試掘結果に基づいて試掘結果図が作成され、当初被告神戸市へ、そして同月二九日に地下埋設物の防護方法につき原被告ら工事関係者が集まって協議検討した専門分科会の席上で同大阪ガスへも交付され、また、同じ図面が本件現場から三〇メートル程離れた同五島組の現場事務所の机の上にも備え置かれた。

なお、右試掘時には、被告神戸市の監督員永井登も巡回し数か所の試掘に立会ったが、本件現場の試掘には立会っておらず、また、同大阪ガスの担当者の立会もなかった。

4  本件ガス管は、直径一五〇ミリメートルの鋼製低圧ガス導管で、南北に走る旧雨水暗渠(幅員一五三センチメートル、歩道面からの深さ一六七・八センチメートル、車道西端からの深さ一五二・八センチメートル)の上部を一五九センチメートルの長さにわたり東西にまたぎ、同暗渠の上蓋(コンクリートスラブ、厚さ約二五センチメートル)の中に本件ガス管上側の一部が埋め込まれ、下部の大半が暗渠内に露出する形で埋設され、路面(車道)からの深さは、暗渠西側側壁付近で約二二センチメートル、東側壁付近で約三四センチメートルであった。ところが本件現場における試掘が前記のとおり暗渠の東側の、本件ガス管が下方へ折れ曲って急斜行する付近において行われただけであったため、前記試掘結果図には右埋設状況が正確に記載されず、同ガス管は五〇センチメートルから六五センチメートルの深さで右暗渠内を貫通する形で表示され、以後、被告五島組現場代理人、同神戸市の監督員、同大阪ガスの担当係員の間で、本件ガス管はそのような位置に埋設されているものと認識されることとなった。

5  昭和五二年二月八日午前八時すぎから被告裴は、掘削機のリース業者である松本こと金寿鎬を使用して、本件現場の南方から北へ向ってアイオンにより約五センチメートルの厚さのアスファルト舗装路面の破壊と旧暗渠上蓋の穴打ち作業を開始したが、被告五島組現場代理人辰井一衛から、当日午前八時半過ぎに本件工事現場で出会ったときに、本件現場辺りにガス導管があると聴いていたので、当日路面破砕予定の約四〇メートルの区間の暗渠の中へ入って調べてみることにし、始めは南側から投光器で照らしてみたのち、北側からも肉眼で見通してみたけれども、結果的には右北側から調査した位置から一〇メートル弱の地点に埋設されていた本件ガス管を認めえなかったので、辰井のいうガス管は右暗渠の下を通っているものと思い込み、右金に何の指示も格別の注意も与えず、同現場付近で別の作業に従事した。そのころ、前記辰井は被告五島組本社に行っており、濱本、杉山の両名も本件現場におらず、前記被告神戸市の監督員及び同大阪ガスの係員も巡回して来ていなかった。

右金は当日始めて本件現場に来たもので、その当時は前記マーキングも殆んど消失していたため、同所に本件ガス管が埋設されていることに全く気づかず、アイオンを操作して順次右路面の破砕、穴打ち作業を続けるうち、同日午前九時過ぎごろ、右アイオンの先端に取り付けられたチゼルで右ガス導管を串し差しの形で打ち貫き、上下に直径約一〇センチメートルの穴を開けるに至った。

6  そして、約一〇分後に右ガス導管の破壊に気がついた被告裴は、同日午前九時一八分、同大阪ガスに対し、本件ガス管に相当大きな穴が開いたから緊急に係員を派遣してくれるよう電話で連絡要望し、同被告係員からこれを了承するとともにできるだけガスの漏出を防ぐよう指示を受け、自ら卒先し、また原告伊藤、同小方らに命じ、ボロ布、泥等を、本件ガス管の頂部の穴にはもちろん、暗渠の中へ入って底部の穴へも詰め、ガス漏出を懸命に防止しようと試みたが及ばず、特に本件ガス管底部に開いた穴から漏出した都市ガスが請求原因2(二)記載の経過をたどって、雨水暗渠の中に充満して爆発し、そして右原告両名及び同所に来合わせた他の原告らが爆風で吹き飛ばされて、同(三)記載のとおり負傷した。

なお、被告大阪ガス(神戸支社保全課指令係)は、前記同裴の電話連絡を受け、直ちに同会社葺合事務所(神戸市中央区北本町二丁目)より係員を出動させたが、現場に到達したのは同日午前九時三一分ころで、爆発に間に合わなかった。

三  責任原因

前記認定事実によれば、本件事故は、金寿鎬がアイオンを使って本件ガス管の埋設地点を破砕、掘削したことに直接の原因があり、被告らの責任は、それぞれこれを予見しえたか否か、また、予見しえたとして結果を回避する方策を有していたか否かにかかっていることになる。

1  被告裴の責任

被告裴は、ガス導管が埋設されている地点周辺の掘削にあたっては、アイオンを使用してはならず、手掘りしなければならない注意義務があったことを認めており、しかも、前記認定事実によれば、本件ガス管が地下に埋設されていることを知りながら、本件現場を、その直接の指揮下にある前記金が掘削機械を使用し破砕掘削するのを止めようとせず放置したことが認められるから、その結果生じた本件事故による損害を賠償する責任があることは明らかである。

2  被告五島組の責任

《証拠省略》によれば、地下にガス導管が埋設されている地点周辺では、その損壊事故を防ぐため、掘削機械による路面の破砕、掘削作業をしてはならないことは、工事関係者の間の常識であったし、被告五島組が同神戸市から本件工事を請負うにあたっても禁止されていたことが認められるところ、前記認定の事実によれば、同五島組は、本件工事を請負った者として、同工事に関する安全監理に全般的な責任を負うことは当然である。そして前記掘削工事を同裴に下請させていたとはいえ、本件現場に現場代理人他二人の従業員を常駐させ、同裴及びその配下の作業員を直接的に指揮監督して本件工事を行わせていたのであるから、同裴の前記行為につき使用者責任を負うべきものとも考えられるが、今これをさておいても、右現場代理人において本件現場に本件ガス管が埋設されていることを知っていたのであるから、同所における掘削機械の使用を厳に禁ずるため、同裴に対し万全の指示をするなど、適切な措置を講じ、もってガス管損壊事故を未然に防ぐことができたし、従ってまたそうすべき義務があったものといわなければならない。

ところが被告五島組は、右義務を怠り、右現場代理人において、前記のとおり同裴に対し、本件現場にガス導管が埋設されていることを指摘したのみで、具体的な指示説明や注意を与えず、あとは同裴において右指摘が意を汲み、十分の注意をしてくれるものと軽信し、右現場を離れたため、前記のように本件ガス管埋設地点でアイオンによる路面破砕掘削が行われるのを未然に防止することができず、その結果、本件事故を生ずるに至らせたものということができる。

3  被告神戸市の責任

被告神戸市は、本件工事を同五島組に請負施行させたものであるから、一般的には、同工事の施行に起因する損害は、同被告がその全責任を負うのが原則であり、同神戸市は、具体的な注文ないし指図自体に過失がない限り、責を負うことはないのはいうまでもないところである。

しかしながら、本件工事は、ガス導管が縦横に埋設されている道路を掘削し、暗渠を築造する工事であって、工事施行過程における不注意により、右掘削作業中にガス導管を損壊する恐れがあること、そして、ひとたび損壊されれば、多数人の身体、生命に深刻な災害を及ぼすべき重大事故に発展する危険があることは、誰もが予見しうるところであるから、そのような危険を防止するため、万全を期す措置が講じられねばならず、そのため起業者たる被告神戸市(地方公共団体は、一般的にその市民の生命財産の安全を保護すべき責務を負っており、また、道路管理者として、その管理する道路に起因する事故を未然に防ぐべき基本的責務があるものと解されるからなおさらのこと)にも、右危険防止のため何らかの役割を果すことが期待され、義務づけられているものと解されるのである。

ところで、《証拠省略》を総合すれば、道路掘削工事に伴うガス導管破損事故を防ぐための安全対策については、従前からつとに行政上の課題とされていたが、昭和四五年四月八日発生した大阪天六の地下鉄ガス爆発事故を契機として国、地方公共団体の関係当局における緊急課題として重視されることとなり、建設省は、道路局長通達を発し、あるいは土木工事の計画、設計施行の基準たる要綱を策定するなどして、地方公共団体や関係業者に対し、ガス導管等地下埋設物の存在位置を正確に表示する台帳、図面等を、常日頃から整備しておくこと、道路工事にあたっては、工事関係者及び地下埋設物所有者の間の連絡を密にし、右埋設物の位置、構造等の調査をし、危険防止のための協議を尽すこと、道路の掘削工事前には、必ず試掘をしてガス導管の位置を確認すること、掘削工事現場に対する起業者自身の監督員による巡回、監督を強化すること等を指示していたことが認められ、道路法施行令(昭和四六年政令第二〇号)一五条の二第一項一号によると、ガス導管が埋設されていると認められる場所又はその付近を掘削する占用工事については、道路占用者に対し、試掘によりガス導管を確認した後工事を実施すべきことを義務づけており、更に、本件工事に際しては、被告大阪ガスにおいて、前記のとおり、ガス配管図を同神戸市に交付するにあたり、同図面が細部において正確でない旨告知して、試掘によりガス導管の正確な位置を確認するよう注意を喚起し、試掘結果図の交付を依頼していることが認められ、また、《証拠省略》を総合すれば、被告神戸市においても、前記国の指示内容等の重要性を十分承知して、地下埋設物分布図、詳細図を作成整備し(但し、平面図のみ)、本件工事の請負契約締結にあたっては、設計図に付随する仕様書を通じ、被告神戸市、同大阪ガス等関係当局、埋設物管理者との間で保安対策につき十分協議すべきこと、掘削工事施行前に必ず試掘を行い、地下埋設物の位置を確認すべきこと、請負人の現場代理人を工事現場に常駐させ、地下埋設物の存する地点での工事に際しては右埋設物の取扱その他につき、作業員に注意を与えるべきこと等を請負人たる被告五島組に要求するとともに、同神戸市自身の職員の監督員に対しても、工事着手に先立ち、予め地下埋設物の位置を知っておき、請負人に通告すべきこと、右不明の場合は、必ず請負人に指示して試掘を行わせ、その位置を確認すべきことを厳命していることが認められる。

以上の事実によれば、道路掘削工事にともなうガス導管破損事故の防止対策は、地下ガス導管の位置、深さ等その埋設状況を正確に把握し、これを工事関係者(工事に携わる直接の作業員の末端まで)に周知徹底させることが基本となるもので、それには、試掘を完全に行うことが最も直接的かつ効果的であり、被告神戸市をはじめ、工事関係者は十分これを認識していたことが認められる。この点に関し、問題は、前記のとおり、同神戸市は、試掘を行い、試掘結果図を作成するよう同五島組に指示したにとどまり、それ以上は何もしていないのであるが、それだけで同神戸市がその果すべき責務を十分尽したといえるかどうかにある。

そして、前記のとおり、土木工事に伴うガス導管破損事故が多発しているところから、国がその防止対策に腐心し、行政指導を強めている時代背景があること、ガス導管破損事故は一般市民に重大な災害を及ぼしかねない危険なものであるから、二重、三重の防止措置をとることが望ましいこと、《証拠省略》によれば、被告神戸市(下水道局雨水課)は、本件工事の起業者であり、道路占用者としての責務を負担する趣旨で、道路占用、掘削工事の許可申請をし、その許可の名宛人となったことが認められること、前記のとおり、地方公共団体は、その住民の身体、生命、財産を保護すべき一般的責務があり、また、その管理する道路に起因する事故を防止すべき責務を基本的に負担していると解されること等の諸事情を総合勘案すると、同被告は、前記道路掘削前の試掘につき、自らの職員たる監督員を立会わせ、その指揮監督の下にこれを行わせるか、あるいは少なくとも、事後に試掘の結果を見分して、十分な試掘が行われたか否かを点検指導して、ガス導管の平面的な位置のみならず、深さ、構造等埋設状況を正確に把握し、これを図面化して作業員の末端に至るまでの全工事関係者に周知徹底させる措置を講ずる義務(工事に携わる作業員の末端までこれを周知させることは、被告五島組の責務であるが、同神戸市は、同五島組がその努力をすべきことを極力要望すべきである。)を、社会一般の規範意識において負わされているものと認めるのが相当である(この程度の義務を同神戸市に課したとしても、過大な費用と係職員の増員を要するとは考えられず、不可能を強いるものではないというべきである。)。

そして、被告神戸市が右義務を尽していれば、直接本件工事に携わっており、試掘にも立会った同裴が、前記のように暗渠内の本件ガス管の位置を誤認することはなく、従って、本件事故は回避できたと推認されるところ、同神戸市において右義務を怠り、右試掘とその図面化を同五島組に任せきりにして、同被告が前記のとおり不十分な試掘をするのを看過し、その結果、本件ガス管の、暗渠と交錯する地点における深さ、構造等、その埋設状況につき不正確な試掘結果図を手中にすることになり、その結果関係者に本件ガス管が車道面からわずか約二二センチメートルの下を通って、しかも暗渠上部の上蓋に一部埋め込まれている状況にあることを把握させないことに帰し、更には被告裴にこれを周知徹底させることを不能にし、結局、本件事故の発生を招来したというべく右の点において同神戸市には過失があったと認めざるを得ない。

もっとも、本件事故は、ガス導管埋設地点は機械掘りしてはならないという道路掘削工事の際の鉄則を知悉していた被告裴が、ガス導管の埋設されていることを知っている場所を、その現場にいながら、配下の作業員において機械掘りするのを放置したという初歩的で信じ難い過誤によって生じたもので、しかも当時自分が試掘に立会ったかどうか覚えていなかったというのであり、そうだとすると、同神戸市が前記のような責務を尽したとしても、それぐらいでは本件事故を防ぎえなかったのではないか(これを防ぐには、監督員が掘削現場に常駐するしかないと思われる。)との疑問が生ずるのを禁じえないけれども、被告神戸市において、同五島組に対し、右試掘を厳密に行い、ガス導管の埋設状況を正確に把握してそのとおりの試掘結果図を作成し、工事現場にこれを常置し、かつ作業員の末端にまでこれを周知徹底させることを強く要求する態度を示しておれば、同裴ら現場作業員を含む工事関係者が右試掘結果図を常時参照する契機が与えられ、その機運が高まり、本件ガス管の正確な位置を知ることを可能にさせたと推察されるから、右疑問には正当な根拠がないというべきである。

4  被告大阪ガスの責任

本件工事は、被告大阪ガス自身が施行するものでない、いわゆる他工事であって、同被告は直接これを指揮監督する立場にないから、起業者ないし工事施行者から、安全対策上の協議ないし立会の要請があった場合にこれに即した対応をするにとどまったとしてもやむを得ないものがあり、《証拠省略》によると、右要請には極力協力してきたことが認められる。

また、《証拠省略》によると、同被告が保有し被告神戸市に交付したガス導管の配管図は、ガス導管の深さ等を正確に表示していない不完全なものであったが、配管図は、現場におけるガス導管の状況を知るための参考資料の一つにすぎず、前記のとおり、ガス導管埋設場所を掘削する場合は、試掘を先行させ、その位置を実地に確認するのが業界の常識であることが認められるし、また、右試掘を被告大阪ガス自ら要望していることに照らすと、右不完全な配管図を備え、かつ、交付したことをもって同被告の落度ということはできない。

更には、本件工事の起業者は、住民の安全に強い関心を持つのが当然の被告神戸市であって、安全対策については、請負人、下請負人のみならず、被告神戸市においてもかなり強力な危険防止措置を、いわば二重、三重に講じることを期待できること、右各証言によれば、本件ガス管の埋設状況は、前記のとおり、暗渠上蓋にかなりの部分埋め込まれていたとはいえ、その周辺の掘削に際し、格別の専門的指導を要するものでないことが認められ、また、《証拠省略》によれば本件ガス管には腐蝕防止のための措置も講じられていることが認められ、暗渠内に設置されるべきガス導管としての法令上の要請も充足していたものと認められること、本件ガス管は、地表からの深さ約二二センチメートルという道路法施行令一二条に形式的には反する位置に埋設されていたが、同条はガス管の上部道路を通過する車両等の荷重に耐えられることを主眼においた規定と解され、周辺の状況からみて右目的にかなう場合には、必ずしも右基準どおりの深さに設置されなくとも、実質的にみてあえて違法とみるまでもないというべきであるところ、《証拠省略》によれば、本件のようにガス導管が暗渠内を貫通している場合には、道路を通行する車両等の荷重は暗渠自体に負荷されることになるので、右の点に何ら問題はなく、しかも、暗渠内のより深い位置にガス導管を設置することは、かえって、暗渠内の水流の支障となるばかりか、漂流物や湿気によるガス導管の損傷を招きやすいことが認められること等に照らすと、原告らが指摘するその余の、被告大阪ガスの過失も認めることはできず、右諸事情からして、土地工作物としての本件ガス管に設置、保存上の瑕疵があるということもできない。

なお、本件ガス管の破損後の措置については、前記認定の事実によれば、被告大阪ガスにとっては、適切な災害拡大防止措置をとる間もなく、本件事故発生に至ったことが認められるから、この点につき過失があるということもできない。

四  損害の発生

本件事故により、原告らは次のとおりの損害を被ったことが認められる。

1  原告伊藤 合計一五一五万七四四一円

《証拠省略》によれば、同原告は、本件事故当時平均日額七八四八円の稼働収入があったところ、前記負傷により、右事故時から昭和五二年九月三〇日まで計二三五日間入院治療を要し、その後も通院治療を続けており、今なお就労は困難であることが認められる(なお、休業損害については、その八割が労災保険給付により填補されている。)。その結果、少くとも次の損害を被ったとみるのが相当である。

(一) 入院雑費 一四万一〇〇〇円(日額六〇〇円の二三五日分)

(二) 休業損害 計五〇一万六四四一円

(1) 昭和五二年二月九日から同五三年一二月二七日までの分 一〇七万六七四五円

(2) 同五三年一二月二八日から同六〇年一一月一四日までの分 三九三万九六九六円

(三) 慰謝料 計九〇〇万円

(1) 昭和五二年九月三〇日まで入院治療を受けたことに関する分 一七五万円

(2) 同五二年一〇月一日から同六〇年一一月一四日まで通院治療を受けたことに関する分 七二五万円

(四) 弁護士費用 一〇〇万円

2  原告李繁盛 合計四三二九万五二九五円

《証拠省略》を総合すると、同原告は、昭和五二年二月八日から同年三月三一日までと同五三年四月一七日から同年八月二日までは足、同五二年三月三一日から同年六月六日までは頭、同日から同年七月二日までは耳及び鼻の各治療のため入院し、その間及び以後も通院治療を受け、同五七年一〇月四日(当時満三八年八月)症状固定し、同五八年三月三〇日障害等級七級の認定を受けたこと、本件事故当時平均賃金日額一万〇三二七円の稼働収入があったが、右症状固定時まで二〇六五日間就労不能であったことが認められ、これらの事実をもとにすると、同原告の被った損害は少なくとも次のとおりと認めるのが相当である。

(一) 入院雑費 一五万一八〇〇円(日額六〇〇円の二五三日分)

(二) 休業損害 二一三〇万四六〇一円

(三) 後遺障害に基づく逸失利益損害 三六三五万〇七五四円

ただし、同原告の労働能力喪失率を〇・五六、就労可能年数を二八年と認める。

計算式 10327円×365×0.56×17.221(ホフマン係数)

(四) 慰謝料 九二〇万円

(五) 弁護士費用 一〇〇万円

(六) 損益相殺

同原告が、労災保険給付として受領したことを自認する二四七一万一八六〇円を右損害合計額から差引くと、残存損害額は四三二九万五二九五円となる。

3  原告李大英 合計七九四万七七五四円

《証拠省略》を総合すると、同原告は、事故直後から同五二年三月四日までと、同年一〇月四日から同年一二月九日まで及び同五三年四月一三日から同月二七日まで各入院して治療を受け、その間と以後も同五五年一月一七日に治癒とされるまで通院治療を受けたこと、右時点で治癒とされたとはいえ、現在なお耳鳴り等の後遺障害に悩まされていること、本件事故当時平均賃金日額六五二二円の稼働収入があったが、右治癒の日まで一〇七三日間稼働できなかったことが認められ、右事実によると、結局、同原告は本件事故による負傷のため、少なくとも次の損害を被ったとみるのが相当である。

(一) 入院雑費 六万四二〇〇円(日額六〇〇円の一〇七日分)

(二) 休業損害 六九七万二〇一八円

(三) 慰謝料 三五〇万円

(四) 弁護士費用 五〇万円

(五) 損益相殺

同原告が三木建設から休業補償として受領したことを自認する三〇八万八四六四円を右損害合計額から差引くと、残存損害額は七九四万七七五四円となる。

4  原告李華玉 合計八五九万三二九八円

《証拠省略》によれば、同原告は、本件事故当時平均賃金日額六二一七円三九銭を得ていたところ、本件事故による前記負傷により、昭和五三年一二月一五日(当時満六四年二月)に症状固定し、障害等級一一級の認定を受けるまで少なくとも三九一日の休業を余儀なくされたことが認められ、右の結果、少なくとも次の損害が生じたことを認めることができる。

(一) 休業損害 合計二四二万七二六九円

(二) 後遺障害に基づく逸失利益 二六六万六〇二九円

ただし、同原告の労働能力喪失率を〇・二、就労可能年数を七年と認める。

計算式 6217.39円×0.2×365×5.874(ホフマン係数)

(三) 慰謝料 計三〇〇万円

(1) 前記負傷自体に基づく分 八〇万円

(2) 後遺障害に基づく分 二二〇万円

(四) 弁護士費用 五〇万円

5  原告小方 合計三〇〇一万九二二五円

《証拠省略》を総合すると、同原告は、本件事故当時、平均賃金日額五八七九円三〇銭を得ていたところ、同事故による前記負傷により、昭和五五年三月三一日(当時満六一年七月)症状固定するまで長期間の入通院(入院日数は少なくとも一七三日)による治療を余儀なくされ、その間休業せざるを得なかった(ただし、二年間は労災保険から八割の賃金補償を受けた。)ばかりか、同五五年九月一三日障害等級三級の認定を受け、稼働能力は全く失われていると判断されるに至った。そこで、同原告の被った損害は少なくとも次のとおりと認めるのが相当である。

(一) 入院雑費 一〇万三八〇〇円(日額六〇〇円の一七三日分)

(二) 休業損害 計三三一万〇一四八円

(1) 昭和五二年二月九日から同五四年二月八日までの分 八五万八四八〇円

(2) 同五四年二月九日から同五五年三月三一日までの分 二四五万一六六八円

(三) 後遺障害に基づく逸失利益 一二六〇万五二七七円

ただし、同原告の労働能力喪失率を一〇〇パーセント、就労可能年数を七年と認める。

計算式 5879.30×365×5.874(ホフマン係数)

(四) 慰謝料 計一三〇〇万円

(1) 前記負傷自体に基づく分 三〇〇万円

(2) 後遺障害に基づく分 一〇〇〇万円

(五) 弁護士費用 一〇〇万円

五  右原告らの右各損害が填補されたとする被告五島組主張の抗弁事実については、これを認めるに足る証拠がない。

六  よって原告らの被告らに対する請求は、被告大阪ガスを除く被告ら各自に対し、少なくとも前記四記載の損害金と各内訳損害金に対する本件事故発生の日ないしその後であって原告らの各請求する時点から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求及び被告大阪ガスに対する請求は失当である。

第二丙事件について

一  請求原因1の事実についての判断は、甲、乙事件の理由一記載のとおりである。

二  本件事故発生に至る経緯は、右別事件の理由二で認定したとおりであり、その結果、原告らほか付近住民に多大の損害を与えたことは当事者に争いがない。

三  雨水暗渠内に本件ガス管が設置されていたことは当事者間に争いがないところ、右設置方法に違法があったこと及び本件工事に先立ち被告大阪ガスにおいて同工事の施行者である被告五島組に対し右設置方法につき必要な通告をしなかった過失があったことを認めるに足る証拠はない。

四  そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、被告五島組の同大阪ガスに対する請求は理由がない。

第三結論

以上の次第であるから、原告らの請求(甲、乙事件)のうち、被告大阪ガスを除く被告らに対する請求は、前記第一の六記載の限度で認容するが、その余及び被告大阪ガスに対する請求を棄却し、被告五島組の請求(丙事件)も棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行及びその免脱宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 東修三 石井教文)

<以下省略>

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